ドラマタイゼーション 尾久守侑
それがないものねだりと知っていて
明日にうそをついた
ヨーグルトとミルクティーですませた
東京の朝
テレビからは、感情に似た
でもそうではない、白いひかりが
リビングに放射して
ぼくの身体にあたっている
よのなかには明るい地獄が多いわね
母の声
と思って顔をあげたら
もうここは、自宅じゃなくて
世紀の流れる微粒子のなか、いつのまにか
ぼくは世界を流しているタクシーから
降りられないだけの男になっていた
スピード感だけが人生の人と
一緒にしてほしくない
いつか、タイムラインに流した
そんな続きモノの会話の切れ端だって
返事がないだけで、簡単におわっていく
バタンと車のとびらがしまって
自分をたいせつにしない人
へんだよって、君が去っていく
普通かよ
普通の言葉でおわかれかよ
なんどもみた光景が
音速で分解していくこの
せまいタクシーで再現されている
お客さん、また四百九十円だよ
いつみたって初乗りから止まったまま
いいんです、四谷三丁目まで
何度でも行ってください
もどりたくなるのが本当の地獄と知って
また行き先をつげる
バタンと車のとびらがしまって
また君が去っていく