Multiverse 中家菜津子
(ⅰ)水曜と同じくらい存在している君へ
げつようび(inflation)
みえないものをとりあえず別の宇宙と呼んですませて
ラーメンのナルトを、きみにあげたかった
かようび(quantum mechanics)
霧の中では死以外の非在を忘れて火を扱う人が勝ち誇るから
もう生まれない月の座標できみに会いたかった
すいようび(multiverse)
世界とよぶものの辺がいつもひとつの泡の皮膜だとして
それを浮かべる途轍もないきみを春のスポンジで洗いたかった
もくようび(elegance)
なにもないなんにも
きんようび(dimensions)
風が花をゆらすリズム、その上を飛ぶ蝶の軌跡のポリリズム
どようび(elementary particle)
かみがギターをひいたときの弦のふるえのちがいを組み合わせ
音楽として生まれた宇宙で、きみのかみを撫ぜたかった
(ⅱ)日曜と同じく存在している君へ
にちようびのうた(space-time)
鷲宮駅前染谷商店でサドルの軋む自転車借りた
両岸に彼方まで咲くこすもすのはじめとおわりを確かめに行く
前を行く君は是枝監督の「奇跡」のテーマをくちずさんでる
立つ人はみな鳥の背にのっている金糸雀色のこすもす畑
花と鳥のおもさのちがいわけあってチョコのかけらを口へ運んだ
コスモスを辞書で引くとき一番に宇宙がとびこむ君のまなこに
咲きたてのコスモスがもつ星があるほらその雄蕊さがしてごらん
ほんとうにここが終点寝そべって見上げた花の隙間の空を
これが最果てのこすもすたくさんの宇宙のなかの白い一輪
こすもすの花びらいちまい時を止め散らせぬちからの花蜘蛛の糸