滑車 佐峰 存
幾層にも束ねられた金属の扉が開いて
滑らかな革靴を踏み入れる、床が揺れ
体幹を回転させると密室が成り立って
包み込む暗闇の中で浮き出した、垂直
な矢印と背骨の先で視界を動かす、精
緻に切り取られた数字の内側を毛虫の
ように光が這っていく、四方の水面は
朝、ここでは陽が沈まない、私も微動
だにせず、反射を見つめていた。重力
が腱を引き出すと、新たな数字が膨ら
んで、頭上から座標を告げる声、扉が
開くと花園だった。一人が入ってきて
蜜の残り香で充満した、扉が閉じて放
流された銀幕の宇宙に、呼吸をほそめ
ていると、再び重力が腱を引き出して
数字が発熱する、扉が開く、戦地ダッ
タ、配列を無毒化するための煙を撒き
ながら、壊れやすい表情を防護した三
人が入ってきて、鼻腔に粉塵が広がっ
た。黙祷のそこここで薬莢、半生命体
の重量が垂れ下がる、数字の内側を光
が増幅する、空が近いのだ、骨髄は逸
脱のない直線を描いて、地にたたずむ
樹木を圧縮した。