望遠近鏡台 住田 別雨
嵌め殺しの窓にはコメットが二尾泳いでいる
有水晶体眼内レンズ挿入術後一日経過
窓越しの太陽を見続けているとくしゃみとともにあふれる
涙を平筆にとってシャーレへ
鏡台に映った光彩と混ぜて
目尻からアイホールに
骨を辿るつもりで、そう
眸は、わたしだけが見られない干潟
潮溜まりに落ちた硝子体を慎重にそそぐ
砂まみれのゼラチンが傷つかないように
ゆうべの暴言がもう笹舟に乗って流れてきた
ボウフラでも涌いているのかお前の掲げる液晶は
指先から網膜へ
飛蚊症なんかじゃないその証に実際
まばたきの度無数の羽虫がはばたき巣立っていく
肺呼吸の人々と浜辺を歩く
ひとりひとつの分銅を胸に抱えて
重りの中には雹
浮かんではいけない
皆いつ溶けやしないか気にしている
皮膚呼吸の人々と波間を渡る
ひとりひとつの風船を足に結わえて
浮きの中には水素
沈んではいけない
皆いつ割れやしないかと心許ない
重力浮力の虜たちは磁力だけをたよりに
各々極を操って
空中に水中に漂っている
電話の切り方すら、とうに忘れて