落葉(らくよう)
うるし山 千尋
葉が落ちるということは切ないけれど
落ちている葉がやわらかいということは
いつかまた
赤子でも感じることだ
かつて竪穴式住居があったという
広い公園をひとり歩いた
まだからだがうまくいかないから
ゆっくり歩いた
どんぐりがたくさん落ちていた
どんぐりをパーカーのフードに入れた
ただ入れてみた
カシワの木もあった
ここではサクラの木は目立たない
サクラは秋の裸
猫が
ていねいにおしっこをしていた
自動販売機で
紙コップのコーヒーを飲んだ
紙コップのつなぎ目から熱いコーヒーが
にじみでてきてすこし茶色くなった
そのあと しばらくなにもしなくなって
また
公園の芝生を歩いた
永遠に歩いているような気がした
ここはラクロスができるほど緑の芝生だけど
いまはもう
ラクロスをやるひとはいない
あれはラクロスだろうか
ラクロスであっているのだろうか
ラクルスかもしれない
カタカナと時間が
ぎりぎりのところで絡み合っていく
やはりサッカーのほうがいいかもしれない
知っていることばで
時間をつかもうとするから
サッカーができるほど緑の芝生だけど
いまはもう
サッカーをやるひとはいない
森へむかって
縄文時代の弓矢を放つ小学生がいる
ぬれた落ち葉を踏む老人がいる
酷薄そうなかおをした鳥が
祖先のように
梢からうかがっている
夕方になると
座りこんで
地べたの匂いを嗅いでみる
白いペットボトルと
血まみれの地面を
そして
空を
自分がちいさい
点になったような気がした
土地のことばも知らない
生まれるまえよりも
ちいさい
点
葉が落ちる
ということは切ないけれど
落ちてくる葉を見上げるときの
その先の空の遠さは
いつかまた
赤子でも知ることだ
波と粒子の
あいなかくらいを
覚えるはずだ
プロフィール
1976年、鹿児島県生まれ。2007年度と2021年度に南日本文学賞受賞。詩集『猫を拾えば』(ジャプラン、2012年)、詩集『時間になりたい』(ジャプラン、2016年)。詩集『ライトゲージ』(七月堂、2021年、H氏賞受賞)。