第1回 詩歌トライアスロン受賞作
うずく、まる 夏嶋真子
磁力によって輪切りにされた身体の画には子宮をぺしゃんこにおしつぶし赤ちゃんの頭のようないのちのない塊がにっこりと笑みを浮かべず
に目のない目でこちらを見つめてはいない
わたしは産みたいと産んであげたいのだと白衣の上にまるい顔をのせた男に嘆願したが男はわたしの言葉を丸めて屑籠を捨てると
「摘出しましょう、子宮ごと。」
と言う
「星を身籠るわたしは母なのです この十年いのちのないこの塊の母であったのがわたしのおんなとしての正味なのです」
「あなたのケースでは、これが最善の策です。リスクを冒してまで守るべきものなのですか。」
「星が生まれる時 澄んでひかりながらしたたり落ちたものの重量を知らないのですね」
「術日を決めましょう。」
うずく、まる。
「わたくしはおんなとして星と相似であるべき身体なのです。」
ふとももと胸のふくらみくっつけて立派な椅子を信じていない
*
四角い褥の上でくりかえしている挿したり引きぬいたりする操作
なないろの明滅の奥にいのちの器がある×/ない×/ありえる○
どんな虹も円の断片なのだからわたしたちはお互いのからだから
つなぎあわせるための曲線を探している
乳房のまるみ 腰のカーブ、敏感な先端、
齧って引きちぎって滴る痛みごと繋ぐと
かなしみとうれしさのちがいをみつけられないまま
うずく、まるからだに沿って
虹がかかる。
何からも遠く離れた中心で名を呼んでいる声にできずに
*
帰り道(一体どこからの帰り道なのだろう)産道をゆく
穴を潜ろうとしてこころはやすやすとどんな光もとおしてしまう
激しい眩暈の中にうずく、まるとき聞こえてくる子守歌
ひかりであるものはうまれるための刃なのだ
この道で出逢う少女たちは
口々に初潮を迎えたばかりだという
母であり娘であり少女であり×/あるつづける○ ために
あるはずのわたしは彼女たちの影へと潜む
たんぽぽにおしえてやろうおんなです
透きとおる素足に蠢くだんごむし
三日月をまるめるために時はあり
角砂糖なめれば冬が浸食す
かあさん かあさん おかあさん、ふりつもるよびごえ
子宮に眠る地球では星が降りしきっているよ
かごめかごめうしろのしょうめんだあれ
「星とわたしが同じになる夜
えらいひとがいいました。
わたしを殺さないものは
わたしをより強くするって。
時々混じる血や黄色や緑の輝きが
日常を事細かに命令している。
信号の四番目の色が
月の光ならいいのに。
信号の四番目の色を
命令形でわたしに教えて。
四番目の命令がわたしを弱くしてもいいの。」
うずく、まるわたしはあらゆるまるになる月のひかりの信号機前
かあさん、かあさん、おかあさん、
母たちの数を数えている列の中にわたしはならんでいる×/いない×/いたい○
うしろのしょうめんのわたしたち
うずく、まる 満月の夜、咲こうとする石塊の中に
うずく、まる 循環する山手線のつり革を掴むことができずに
うずく、まる うみおとせなかったものでみちる海を抱えて
初出「現代詩手帖」9月号