第8回詩歌トライアスロン鼎立作品奨励賞連載 トライアングル 髙田 祥聖

第8回詩歌トライアスロン鼎立作品奨励賞連載
トライアングル
髙田 祥聖

・頂点①

線を引く
一日に何回も何回も
見えないものはいつも地続きで
わたしたちは終わらないものをこわがる
トーストを食べながら
さっきまで朝だったことを確かめるように舌先が動く
目覚めれば喉が渇いている
いつの間に潮干狩りに行ったの
牛乳が白いせいで靴を忘れてきてしまった
喉の奥に覚えのない砂がある
砂が塩でないことに感謝しながら丁寧にうがいをする
書くために鉛筆をとがらせる
何本も何本も
書けば鉛筆はまるくなる
書くために鉛筆をとがらせる
何本も何本も
書けば鉛筆は
ひとりごとを言えば喉が渇く
乾燥すれば罅割れていくものを
君も持っていたの

・頂点②

寝ぼけていたせいか牛乳を混ぜてしまった
牛乳は白い絵の具みたいに
ううん
ほとんど白い絵の具として
やさしく
やわらかく
なめらかにしてしまう
ほとんど血液とおんなじなんだって
って言われて
血液になってしまう
漂流というには狭すぎるコップの中で
そういうことだったんだ
関係あるひとなんだ
一応ね
海のどこかで会うことなんてあるのかなあ
なんて
なにから手を着ければいいのかわからないなら
ここに白い絵の具がある

・頂点③

またねって言ったあと
結局、一度も合わせることのなかったてのひらを
握りしめていたらゆで卵になってしまった
剥くまえのゆで卵と生卵
どちらも殻の手触りは同じはずなのに
どうして生き死にがわかるのだろう
死んだときに生きものは少しだけ軽くなるはずなのに
どうして生卵よりもゆで卵のほうを重く感じるのだろう
衝撃を与えれば
雷鳴のように
卵に罅は走り
それを手がかりにひとつひとつ欠片を剥いでいく
一口かじってみたら
噛みあとが鎖みたいでどこへも行けなくなってしまった
わたしが食べられるわたしのからだの範囲
からだの可食域
とでも言うものが
わたしにあって
わたしがわたしを害しすぎないように
このからだはできている
わたしの可食域ではないところを誰かが噛むとき
ちゃんとそこに鎖は残されていますか
わたしは見ることができないから
鎖も
月を食べようとする蟻も
わたしには見ることができないから
そこに鎖が残されたってわかるくらい
ちゃんと噛んでください
そうしてその可食域にただ残されている月食

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