負へよ 橋本 牧人

負へよ 橋本 牧人

ひとくれの真実(まこと)あらなむ剝くほどにあかるめる梨濡れてありたり
あかぎれの深きゆはつか湧ける血の一粒に血を圧し集むなり
琺瑯の鍋のそこひを注ぎたる乳と注げる乳はからめり
生きてある問ひを負へとぞかなしみを負へとぞ歌はわれを歌はす
自焼せる兵士に銃を突きつくるひとのいづれもひとなるうつつ
変はらざるものとぞ知ればたまきはる心に汝は殉じたまへり
雛菊の花のさきより萎るるを狂佯狂のあはひより見つ
剃刀のそのもとよりの切れやうを目は切れなむとほとびゐたるか
連日 ときけばなづきに亘りたる白夜の露光写真 の虐殺
ねむられぬ夜半をあをきアパートの屋根に分かたれゆく春の雨
野いちごの黒土の野の思ひ出づることことごとく鬱鬱にほふ
まぼろしを見むとする眼やまぼろしを歌はむとする舌や摘むべき
めざむるともめざめざるとも降る雨のながく此界をはなれがたしも
うつむきて歩みをりしが塀の上ゆ辛夷の枝のわれに触れけり
咲きゐたる辛夷滅法あかるくて枝しならするそのおもき花
われらなる幻日を棄て造らむよその吾が首の美しからずとも

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