いますこしひかりを 長谷川と茂古
あぢさゐの色褪せたるを隣人はざつくざつくと落としてゆけり
「お墓にひなんします」てふ九十三歳逝きし世の乾いた空気
翅揺らししばらくの後飛ぶ揚羽 芙蓉の花のそのうす紅を
一巻の終はりならず長長(ながなが)し おせんが泣かす牛や畑や
わが庭にこぼれたまろきあぢさゐの花首二、三拾ひてをりぬ
苦虫を噛みつぶしたやうな顔をして歩く猫をり つてやんでえ
午後5時の「夕やけ小やけ」を聞きながら草引く庭に蝉の声落つ
かげりゆく夕映えあはく息をつぎこの十字路を照らしぬ しづか
白桃を指もて剥けばささやかな鳥肌立ちし果肉なるかな
雨脚は少し強まる気配する広重描く「虎ヶ雨」より
作者紹介
長谷川と茂古
一九六一年生まれ。中部短歌会同人(一九九五年入会)。
二〇〇四年「中部短歌」新人賞。
第一歌集『幻月』(ながらみ書房 二〇一〇年刊)。