夜の(半減期 渡辺玄英
三日前に死体を埋めた
夜の公園に
ブランコの裏手の(湿った土の
(おもしろかったかどうかはまた別の話で
湿った土が指に爪に(風が強かったので
三日前にぼくは死体を埋めた
と明日ぼくはおびえていると三日後のきみに語っていると
いまぼくは思い出している
(台風が近づいている(闇が濃い(光(風(雨
いったいいつのことで誰がそこにいたのか
(広い範囲が暴風域に入り(死体の闇は濃くなり(死因は特定できない
ぼくはここには来ませんでした(というより
ここにはいない(サイレンが鳴る
公園の常夜灯にうかびあがる
ブランコが揺れている(風で木々も揺れる
揺れているのはぼくかもしれない(ゆれる(ここにはいないけれど
三日前の夜に三日前のブランコがゆれて
昨日の夜に昨日のブランコがゆれて
三日後の夜に三日後のブランコがゆれる
三日後の夜に思い出された三日前のブランコがゆれて
思い出された三日前の夜がはじめて埋めた夜の公園で
濃い闇にブランコはゆれて ゆれているブランコに夜が昨日の夜にゆれて
(木々も揺れてつまり揺れているのはぼくやきみ
ここにはいないけれど(薄く火をつけて燃やした
この常夜灯にあつまる羽虫たちの複眼にたくさんの夜
ムスーにゆれるブランコ(のそばの常夜灯にたくさんの羽虫が
ムスーにゆれているブランコが(ゆれているのはきみかもしれない
ゆれているいいね(ゆれて(いた(揺れ(つづける(いた(いいね
いっせいにいま(いいね
こんなにもムスーにゆれて(いいわけがない(ぼくはゆれて
どこにもいない(きがする(複眼に(ゆれて(いいね(いいね
いないね(いるね(いいね(ゆれて
いきなり魂の重さを考えてみる
こんなにも揺れたとしても
魂の重さは同じだろうか
ひとりの死体を埋めたとしても変わらないだろうか
セカイが消えても魂はのこるのか
(魂の半減期は希望になる
ぜんぶ終わってしまうとあの日の悪夢も消えてしまうだろうか
なかにはプルトニウムが入っている
そういうことになっている(ぴかどんだ
終わってしまったらすべてきみの思うとおりだ
もう数字やコトバが意味をもつことはない(希望ってよく燃えるから
半減期の二百年とか二千年とか(それが救済だ
燃えつきるまで(痕跡はのこって
きみの魂を蝕んでいくから
(赦される日はこない(魂の痕跡がのこっている
きみはキオクにすぎなくて(そういえばぼくも
光の反射でした(ゆれる光の
公園に埋められたタマシイの夢の半減期
手に残された感触のびくびくと揺れる半減期
(それでも魂の痕跡がのこるから
どれだけ逃げても逃げられはしない
埋めたはずだ(だれも知らないはずだ
広大な海に波が一瞬立つように
(ぼくらはうまれた(そして消える
(ふいにあらわれて消える
ブランコがどれほど揺れても時は進まない
いつまでも繰り返し揺れて(常夜灯の光を反射して
(ぼくらはその破片のきらめき
だから重さはかわらない(だろう
もし魂に重さがあったとしたら
それは何なのか?(天から地に墜ちるだけ 希望だよ
ゆれるの? (いや 真っ逆さま