「陶人お吉」 廿楽順治
さわるとつめたくてきもちよい
ひとしれず
そう呼ばれていたのは知っていたが
知らないふりをしていた
あれは年号がかわったころのこと
でもすぐに意識が割れてしまうから
明け方に置いていくときはしまつがわるい
泣きだすときまってするどく光った
まるで瀬戸物か
西洋の便器のようでありますな
おれが北の町で
ばらばらに割れたのもちょうど同じころだ
あたりいちめん
くだけながらあるいていく
つめたくて
きもちよい不意の時代がはじまっていた
お吉さん
あんたのぬるぬるの極楽はどっちだね
崎陽軒のおべんとうをたべながら
わたしは
遠くの遺体のようにならんでいた
さわるとつめたくてきもちよい
まるで
十六のころの夏の沖の恋であった