見えぬ星座 小黒世茂
そのかみの入(いる)鹿(か)銅山けぶらせて杉森ほそき絹の雨ふる
イギリス兵の白き十字架まもり来し入鹿村あり奥熊野には
朝鮮人強制労働者を記したる河原石ならぶ 徒雲の下
花相撲せし草の名は次郎坊(じろばう)延胡索(えんごさく)とふジロボウエンゴ・・・
鎮魂のまつりをせむよ笹一本かつぎてのぼる裏玉置山
すそ野すでに胸突き八丁づるづると夏の落葉に退(すさ)りてゐたり
樹の細根にかくまはれたる泡虫を起こさぬやうに遠巻きにゆく
のぼりおりのつぴきならぬ夏草の斜りもやうやくかぎり見えたり
山の神しづもる磐より天頂の見えぬ星座に笹たてまつる
白石を敷きてきんぎん短冊を風にゆらせばここは銀漢
鈴の音と真昼の星の呼びあへばりりりり涼しき言葉生まれむ
わが言葉は峪にひびかふ鈴の音のごとくあれかし 七月深空
ゆるやかに地球はまはり土を這ふ蛙の見たる夏の夕焼け
作者紹介
- 小黒世茂(おぐろ よも)
1948年和歌山生まれ。大阪在住。
歌集『隠国』『猿女』『雨たたす村落』『やつとこどつこ』『小黒世茂歌集』
エッセー集『熊野の森だより』
「玲瓏」所属