花ことば 小川 ゆか
眠そうな夜明けの肢体 紫のカラー一輪マグカップへと
きらきらと柘榴はじける秋が来てざわつく胸を空へとひらく
響きたくなくても鳴ってしまうときオジギソウたち睫毛を伏せる
ルリタマアザミみたいな子どもだった前髪を抜くのに理由など
雨降れば金木犀も降るでしょうマスクの内側からのさよなら
右耳に秋薔薇がいるしっとりと薄桃色の花弁重ねて
我儘に生きるためではなかったら何のためにとデンファレを挿す
南天は白い花から赤い実へそしてちいさなてのひらの上
昏睡のその先の国 一面のポピーの丘にそよ風は吹く
ミニバラは非対称に開かれた目と目が合ったその瞬間に
吾亦紅移ろう日々にぷかぷかと漂うものを抱えて眠る
棘を持つヒイラギの葉に触れたなら傷口ひとつふたつと赤い
石蕗のひかりを思うその斑と花火のように落ちる花弁を
真実はいくつもあって当たり前なのよとカーネーションは微笑む
笑わない背中が不意にほころべばテッポウユリの香り漂う
本日は柿の日らしい夕空がばらばらばらと落ちてきそうだ
睡蓮の清純を疑いながら立ったまま寝る今日この頃は
ひっそりとすみれの声で話すときふたりは藍の花びらだろう
眠れないまま丸くなる深夜二時泣きたくなるほどきみ、かきつばた
一斉に紅葉が風に揺さぶられひかりを放つ 手を振り返す