そして 加藤 治郎
やわらかい麺麭をひろげて待っている表情がすこし明るくなって
背中には白い翼のないことをあなたの背中みつめる
噴水のしろい飛沫をうけとめてあなたは冬のまんなかに居る
花びらとなってゆうべの風に乗るひとひらはうす青いまぶたに
そうするとシャワーヘッドは目茶苦茶に湯を噴き出して俺はそうする
いのちの潜む皮膚をあなたは探りあてふたり宇宙のすみっこで泣く
もし、ってささやいていた銀色の最終列車は五分少々遅れて
映画だったら名前がいっぱい天国に昇ってゆくのにだれもいない街
沈黙のまえの言葉が反響し凍った雲がてのひらにある
シクラメン日当たりのいい場所に置くトーストの香りあたりにみちて