ラズボイニカ 叶 裕

ラズボイニカ                               叶 裕

戦車列ぶ春まだ浅き東欧の泥濘に咲く花の名知らず

差し迫る戦況を告ぐ安物のラジオは父祖の聖遺物なる

天仰ぎ嘆く媼の喉深く遺恨の炎見たやうな気のして

大国の大義の下に子を殺し母を弑する阿鼻を許すな

積年の威権に狂ふ為政者の手握る核のボタン重たき

小国を蹂躙しをる狂人を撃つ劫罰の鳴神よ来よ

平和とは勝ち取るものと云ふなかれ和とは互ひを赦すことなる

民草は八端十字架仰ふぐままラズボイニカを誦すのみにあり

地球てふ卵を握り潰しかけ嘆き哀しむ霊長愚か

遠国の戦火を悼む心持て空を仰げば夕焼けてゆく

叶裕 (かのう ゆたか)

1965年東京都生まれ。写真家。「里俳句会」「塵風」「新宿歌舞伎町俳句一家・屍派」「四季短歌会」所属。

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