第9回詩歌トライアスロン鼎立部門次点     自由詩「初期衝動」他 寺道 亮信

第9回詩歌トライアスロン鼎立部門次点
自由詩「初期衝動」他
寺道 亮信

短歌

溌剌の球蹴る朝のグラウンドカルト常套手段と知って
名も知らぬコピーライターこそこそこそ暗躍したる国民詩人
地下鉄の可憐なあのこあの口で某J(こく)・(て)R(つ)と繋がっており
地下室の書架と初夏とに挟まれてしおりとなれば空も舞えたか
空間のある限り這い回るしかなく行きずりのケーブルと穴
アーケード、チェーンの店が少しずつ違って地方(こ)都市(こ)は平行世界
ユネスコの幹部口角泡飛ばす地球最後の電話ボックス
古書店の棚に逐一蹲踞して彼岸で森がひとつ生まれる
それぞれの人生なぞりあうだけの人生なぞりあって一日(にちぼつ)
発音の悪い私の英語とはZoomの途……途…………「声」

俳句

白靴やどこから砂はおいでませ
春の水糞りて石塗る画伯かな
学歴の割礼うけて水温む
爪切りをくすねて早し震災忌
耳敏し猫に揚げ芋せがまれり
膣と土持ちつ持たれつ蚯蚓鳴く
地震雷火事露西亜ノ殺シ屋
柿の種蒔いて注ぐる海光
自撮りし子ワレとつぶやき一葉落つ
刑務所のムショに椋鳥たちの黙

自由詩「初期衝動」

朝 蜘蛛膜下出血が終わったあとの、清々しいというほどではない静けさが心地よい
むかしの性行もどきが思い出されてきて(むくむくむく) 
脳汁予測変換でハートマークのスタンプが出てくる出てくる
朝 これでよかったっけ?
「それはそれとして」6ミリ罫のB5ノートはクラシカルだ
朝の鉛筆はこそばゆいしね 暮らしを軽くする ←企業のコピーみたいだ
文字は冷たいから、それまでにからだを冷ましておかなくちゃ
ひとの手から放たれることなく、あらかじめ離れていることば

WCのジャロジー窓に凝(ガン)視られる、歩く事実陳列(罪)──第一部 人間の生態について──が、パンプスで露どもを軽くいなしていく
そうか、米を頬張っていてもいいのか
計略めいた糾弾は断固反対だ
《初期衝動を思い出せ!(ナニの)
ホッキ貝をラの音に調律して開始する
ボワァ~とはならない ファンファンファンと鳴る
奇しくも潮間帯で黄金が涌くときと同じ、聖域の
ぬるっぬるいっ おかしくなっちゃうくらいぬるっぬるいっよ
それにぶつかる
ホッキ貝は小リスさながら薫愛される
だからおちゃらけて
しまった!(しめた!)
シの音(が鳴る)
ホットラインが貫通した決定的瞬間(死語)だった

全身が肉になりかけている
本当に文字通り、首の皮一枚のところで肌であることができている
あるいは、首ではなく陰茎の皮一枚
あるいは、定義上ズル剥けではないというだけで、もはやそこに肌はない
あるいは、肩代わりしている
これも文字通り、肩の代わりをしている
あのお肩、晩年の左翼手のお肩
傴僂のお肩
がめくれる、がめくれる
英語風に言えばディスカヴァー
サイエンスが、マスが、わたしの肌をめくっていく(彼らにとってそれは単なる果実の皮)
身長175センチ、体重53キロの歩く事実陳列罪

事実を陳列することが悪だとは限らない
ノン事実を陳列しないことが善だとは限らない
だが、
それにもかかわらず、
であれ、
とりもなおさず、
とりわけ、
くわえて、
また、
くわえて、
あるいは、
くわえて、
であるがゆえに、
くわえて、
いっぽう、
くわえて、
たほうで、
くわえて、
くわえて、
くわえて、
清掃者がすべてを攫っていく
それが仮象だったとして
ホッキ貝はどこまでも、裏表紙までも晴れやかだった

細工は流々、仕上げをご覧じろ。
念入りに鉛筆をトキントキンにして
初期衝動継続時間を清書する
ジャロジー窓はまだ、事実陳列(罪)──第恥部 鳥の歩行、あるいは奉仕について──を玩味している
博士もまた要点をまとめて飛び降りる

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