会田綱雄と言えば、やはり「伝説」である。この詩は色々な所で引用されるし、確か教科書にも採用されている。でも、ここで「好きな」詩人として言及するのは、「伝説」を含む第一詩集『鹹湖』の会田綱雄ではなく、後期の、とりわけ詩集『遺言』(一九七七年・青土社)以後の会田綱雄である。これらは現代詩文庫版『会田綱雄詩集』(思潮社)には収録されていない。かつて読売文学賞を受賞した『遺言』だが、現在一般にはほとんど読まれていないと思うので、特にこれを推したい、という気持ちが強い。現代詩だって、名人芸のような語りがあってけっこう面白いんだ、と言いたいのである。
|
こういう書き方については、人によっては不真面目だ、おまえは世界とどう対峙してるんだ、と怒る人もいるだろう。それはそれでよいと思う。でも、詩なんだから何が起こってもよい、という考え方もある。現代詩だからといって、いつも最前線を旗振って走らなければならない、と思い込むのは、一種の選民思想みたいなものである。詩は「おれを読め」という暴力と紙一重で、その危うさが面白みではあるけれども、それとは全く違う志向を平気で飲みこんでいる鷹揚さがなければ、ジャンルとしての先行きは高が知れている。
|
人によっては、これじゃ散文とか随筆ではないか、と思うかもしれないが、会田綱雄の場合、ぎりぎりのところでそれを逸れていく。少し長めの詩が多いので、全編引用できないのが悔しい。部分的な引用が逆に、会田の絶妙な語りを損なって伝えてしまう気がして、怖い。
最近、この会田綱雄のマネをして下揃えの改行詩を書いているが、どうもこの域に届かない。
※引用した詩は、原文では行頭が下揃えとなっている。