冬の畦の歌 望月遊馬
無菌室の少女の排泄を目撃した日、
ぼくは痺れるくらいきれいでした、
真っしろな家庭菜園で手をつないで、蕾の匂いを、
少女は頬を染めてかたったのでした
麦穂のような顔をした看護婦さんが、
温室で壊れたまま捨てられていました、
ぼくはふと、この看護婦さんのながい髪を、
たどりつつ少女の排泄が終わるまでの間、
歌をうたい、おどりながら、ときに微睡んでいて、
ふと、避雷針のしたで死んだ先生のことを、
思いだしました、
先生はぼくにキスしたんだっけ、
ひゃくようばこの匂いのとどかない、準備室で、
先生が、ぼくを女にしたんだ、
そのことを少女は知らないのです、
枯れた球根が、男の股のむこうで揺れている、
帰り道に畦を歩きながら、びょういんの門を、
ふりかえる、ぼくは少女に、手紙を書こうとおもう、
びょういんのむこうの山をこえると、
ぼくはかぜになる、
無菌室の少女の排泄を目撃した日、
ぼくは痺れるくらいきれいでした、