原子力は魔女ではないが彼女とは疲れる、(運命とたたかふみたいに)
岡井隆「三月十一日以後に思つたこと」 「短歌研究」五月号
岡井隆は中野サンプラザで、短歌講座の講義をしている最中に、大地震に見舞われたという。JR線の不通で、結局、一晩を避難所で過ごしたのだそうだ。掲出歌は岡井自身の過去の作品「原子炉の火ともしごろを魔女ひとり膝に抑へてたのしむわれは」を受けたかたちになっているはずだ。岡井隆は四月十一日付の日経新聞に「大震災後に一歌人の思ったこと」というエッセイを寄せ、そこで、原子核エネルギーとはこの先も巧くつきあって行くほかないとの意を記している。それはともかく、このたびの震災による東京電力福島原発の事故を予見していたかのような歌をすでにつくっていたことに驚かされる。そして、疲れる関係を(運命とたたかふみたいに)と、改めて詠いうる強さに、圧倒される。