第8回詩歌トライアスロン三詩型融合部門連載第6回
深夜のクローゼットに残すもの
豊田 隼人
映画館にはあらゆるものが息づいていて
ドリンクもポップコーンもチュロスも
自らの万能感を誇示している
スクリーンのなかで
植物の種の、接続されていく先に
明るい隠匿が、少年の
自己犠牲と横並びに在った
ある本を閉じたところで光りだすエリンジウムのその冷やかさ
脳奥で恥ずさと電波を感じつつスマホの外で着ぐるみになる
きもかわのぬいぐるみさえうそ涼し
夏の夜の台詞につなぐ美々美々日
彼の遺したものが
埋められた駅を訪れると
仮装した屈託どもと
きれいな奴婢の足し算があって
コインロッカーに入れられた
彼の重さは霞んでいた
映画館の入った施設がここから見える
光る施設名は、その光を、光を
彼の質量を美しい立方体として描きだしている
あのなかに彼とわたしの
うるさい日記が残っているのかもしれない
箱庭を覗こうとして溺れても、だれも助けることができない
炎陽に日記の文字ぎゅうぎゅう
百円なくて新緑の喪
遺すものを隠す深夜の容れ物に赤いポスカで色を入れてく
乱れた時刻表のあとで
スクリーンに投影された
彼とわたしの手には
夏を求めるステッカーが貼られていて
空調設備の不調を謝罪する映画館に
わたしは「安心していいの」と叫ぶ
高音であることを忘れて、忘れたことに
海も山も思い出せずに、声にたゆたいながら、
彼と恥と金の過去性を愛す
忘れられてから開かれるクローゼットの奥にわたしのほんとを残す