やわらかな馬 水嶋 きょうこ

やわらかな馬
水嶋 きょうこ


   

むこうからくるものがいる

あしおとをたて 
たてがみをなびかせ

はしりさるまで 
はしりきるまで
ただ、がまんするのだ

いきをとめたかい
てあし かくしたかい
こうら みがいたかい

ぬれたしろい牝馬が
烈風をかきまぜていく

もういいよ でてきて
みてごらん

あおあおとした木々には 
むすうの 卵のしずくが
はりついていた

  *

のはらにいっぽんの木

きょだいなユリノキが風をうけている
みどりのたてがみはなびき
オレンジいろのはなは天をむき
のはらは ざわぞわと おしゃべりだ

木のしたでつめたくなった
きあげはの
あみこまれた くちなしいろのレースのはねから
かおをだす とうめいなものたちがいて

生まれて はねて ごらん
また、とんで ふぶいて ごらん

めぶくからだ 
きえてゆくからだよ

まじわりのときに
うすいこもれびがあたり
光と影がちらばった

―てのひらにうけとるしずかな一粒のしずく

木を ぬけでた馬は
のはらをみすえ
あしをちいさく
ふみならす

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