第10回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞連載
聖夜に
山崎 秀貴
定型が拒んだ四月の句想も
翻訳を拒んだ八月の論理も
この年に払い去る
聖夜の鐘が鳴る
鵞鳥の裸は美しかった
耶蘇でないが教会へ行く
或る牧師のSpruch ——
»Von guten Mächten treu und still umgeben«
一九四四年にレジスタンスとして書かれた神学的詩作
»das Heil, für das du uns geschaffen hast«
我々を創る目的となった救いとは何か
»Und reichst du uns den schweren Kelch, den bittern«
我々に与えられる重く苦い杯とは何か
私の言語が理解し得ない祈りをそれらしい顔で肯い
一瞬悪びて聞き流す
壁の肖像にアンネがいた
聖しこの夜は誠実に歌い
零度を帰って床に就く
あと何夜か越せば新たな年
それまでに私が忘れる種種の言葉が
誰かの手で蘇ることを願う
山崎 秀貴(やまさき ひでたか)
1993年、大阪生まれ。ドイツ・ハンブルク在住。楽園俳句会。Twitter: @hdtkymsk