第4回詩歌トライアスロン受賞連載第1回 便宜供与してください   戸田響子

【第4回 詩歌トライアスロン受賞 連載第1回】

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【第4回 詩歌トライアスロン受賞 連載第1回】

便宜供与してください   戸田響子

ものすごい量のワカメだった
チャンネルを変えた
どこかの国で日本人が自慢している
チャンネルを変えた
それで困っているんです、とモザイクの女が変な声で言う
チャンネルを変えた
どこかの国で日本人が自慢している職人の技を
チャンネルを変えた
からあげが皿いっぱい盛られてライスと味噌汁がついて六百円
希望すれば百円でコーヒーか紅茶がつく
ニッカボッカの男がぎこちなく笑って常連のお客さんはというテロップが出された

テレビから漏れてる青いまたたきで住宅街は宇宙のようだ

三個買うともう一個ついてきてしかも割り引きされる
でも必要なのは二個
だが二個だけ買うことはできないように
遺伝子に何かが書き込まれている
ミトコンドリアDNAにも

パンの耳をどうするんだ

高速道路の渋滞中継を見ていたら
渋滞にひっかかっている全員の舌打ちが偶然同時に発せられ
その音量と空気の振動により通信機器が破壊され
しばらくお待ちくださいというテロップが出たまま一日が終わった

折れたシャープペンの芯が飛んできた

スクランブル交差点からの中継を見ているみんな赤でも渡る

地下鉄のドアが開いた瞬間
乗客は乗り換えのために走り出した
階段を降り、通路を走り
階段をあがり、また通路を走った
長い通路だった
ひとり、またひとり、と力尽き倒れたが
それでもみな我先にと走り続けた
地上に出るや太陽に焼かれ
森を抜けた先でスコールに遭い
川を渡り砂漠を横断し
なりふりかまわず山頂をめざした
誰もひとこともしゃべらなかった

便宜供与してください
わたしだけに
わたしとお母さんだけに
わたしとお母さんと犬のマイキーだけに

牛乳屋が来ない

お金貸してください
いや、ください
お金ください
特別扱いしてください
スペシャル待遇してください

夜勤担当が来ない

試供品ください
ポケットティッシュください
タクシーチケットください

先頭も後ろも見えない行列のどこかで怒号が響き続ける
懐かしい人から手紙が届いてて追伸の後が空白だった
楽しいことがまだあるような気がしててジャングルジムから夕陽を見てる
アスファルトの古い道には少しだけ轍が残ってバッタが跳ねた
終わりゆく夏など嫌だひぐらしを殺しにゆこうと少年が立つ

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