第7回詩歌トライアスロン・三詩型融合受賞作/牛乳の薄皮   草野理恵子

牛乳の薄皮【第7回詩歌トライアスロン・三詩型融合受賞作】

牛乳の薄皮   草野理恵子

(腰をかがめる)

赤い月を一頭手に入れるが
どこに繋いでいいかわからない
くつわを噛ませ
一層赤くなる月の手綱を伸ばし
遠目に見ていた
お腹がすいたら
月は何を食べるのだろうか
何もわからず
手に入れてしまった
足裏に冷たさを感じ
雨が降っているのに気づく
雨でも月がいてくれることに
内臓が喜び
内膜が剝がれ
出血したように腰をかがめた

赤い月一頭手に入れくつわする 何も食べずに月 雨当たる

(変な音が鳴る)

夜中の駅に着く
駅なのに駅らしき建物はない
歪な形の列車だけがあり
巨人と
その子どもが乗っている

私は口から毛布を出し
列車に乗る
ガーゼが舌の薄皮と一緒に剥がれ
毛布に悲しいパッチワークのように
張り付いた

寒い
巨人はさらわれると思ったのか
子どもをぎっしりと抱く
汗をかいている
子どもから変な音が鳴る

乗車する 歪な列車だけの駅 向かいの巨人子ども強く抱く
(シューシュー)

笛を手にしている人が
空に浮かんでいる
夕焼けの被膜の一端と
糸で結ばれている
頬を膨らませても音は出ず
糸の動く
シューシューという
音だけが聞こえる

彼は観念したように
夕焼けを見る
眩しく目を細めると
笛がカタカタと鳴る
笑っているの?
と聞くと急に日が暮れ
笛が見えなくなる
小刻みな風が立ち
渡りそこねた鳥が
そこにいるように思う

夕焼けの被膜と糸で結ばれる 日暮れとともにシューシュー巻かれ

(身を反らす)

歩いていると
私の形をした皮膚が
硬く海岸に立っていたので
すべて脱ぎ去って
その皮膚を着た
二重の皮膚は
安心と共に少し暑苦しい
皮膚の中心で
香でも焚かれていたのか
私の中から知らない匂いがする

歩きだすと
撒き餌を内在させたように
みっしりと人が押し寄せてくる
私は身を反らして
潰れた

海岸に皮膚が直立 着てみたら 人が押し寄せ圧死する朝

(ごめん 牛)

色とりどりの石が
内在している
牛を一頭飼っている
硬いすべり台にのせて
ごろごろと滑れば
皮膚がこすれ
美しく光る

命がけで生きることを
牛と約束し
牛は日々美しくなる
何が命がけなのか
牛とよく話す
死ぬか生きるかですと
その薄い一枚ですと
牛は笑う
私は何をやっても
全然死にそうじゃない
文章を毎日書いても
全然死なない
ごめん 牛

とりどりの石を内在させる牛 滑り台にて美しく光る

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