第7回詩歌トライアスロン三詩型融合候補作/アルモニカ   さとうはな

【第7回 詩歌トライアスロン三詩型融合候補作】
226s

アルモニカ   さとうはな

父親に殴られて逃げ出した
夜明け前の空は深い水底の色だった
映画みたいにきれいだ、あなたは言う
ぼろぼろの ぼろぼろの どんなにぼろぼろのときでもあなたは世界のうつくしさを言う
つめたい空気と見渡す限りの地平線
わたしたちはまだ 世界をコントロールできなくて
深い水底でもがくようだね
抜け出せる日は来るのだろうか

夜の河に手を差し入れていくつもの鳥の心臓すくいだすのだ

夢の中で図書館は何度も爆破された
禁帯出の鉱物図鑑 妖精が主人公の児童書 遠い昔のお菓子の本 
異国の言葉で書かれた神話 庭園を造るための手引書 美しい装丁の野鳥図鑑
みんな瓦礫に埋もれ 灰に埋もれた 灰のひとひらとしてわたしは歩む
雨が降っていた 煙と土埃、水滴 泥の中を泳ぐようにわたしは進む
片隅に咲いていたもの、あれは花だった?

静音の爆発 あふれて こぼれる
何度も何度も 爆破は 夢の 図書館 爆破 は
雨に鎖されて あふれこぼれる

夕立ちの後のうす雲重なって光るところがわたしの柩

その後は闇 闇

わたしが燃えたら火はあなたに燃え移るだろう
燃えて灰になって、灰になったまま、なったまま、千年を過ごそう

梔子を抱えて越える黒い河ひたすら夜は壊れやすくて

千年を抱き合ったのち、あなたは泣くのだろう
ごめん、と泣いて赦しを乞うのだろう
あなたのお父さんはひどい人だったね
こんなにもあなたを傷つけたの?
わたしたちはこの場所を壊して そして逃げるのだ

短夜に還るべき場所持たぬまま
手花火にでたらめな文字書きあひて
砂浜のボートに座り夏の星

生まれなかったこどもたちが手を取り合って星の野原を行くよ
焔えるように明るい野原を 白い寝間着でみんな
夜の来ない世界は朝も来ない世界だ こどもたちは輪になってアイスクリームを食べ、順番に歌をうたう 
こどもたち それはわたしたち

その後は闇 闇

どんな場所でもわたしたちは わたしたちは破壊する
うたうこと 祈ること 食べること すべては滅びに繋がる儀式だね

アルモニカ 鳥をうたえばひそやかなあなたの声が風に震える

あなたはもうずっと昔に廃れてしまった楽器のようだ
それは水と硝子でつくられていて、澄んだ音色を奏でるという
爆破された図書館は再生するのでしょうか
自ら枝を伸ばし、羽を伸ばし、蘇るのでしょうか
欠けた月がまた満ちるように 引潮がまた満ちるように

鎖骨まで水に浸かればもてあますあなたの月のような野生を
いくつもの夢を引き連れ発火するような空だな 今、西の端

いつまでもあなたと話していたかった
夜を待って/待たずに
朝を待って/待たずに
火を、移してあげたかった どこまでも燃え尽きない火を

きっとお互い分かっている
あなたとはずっといっしょにはいられない

月虹がうかぶよあなたの背景に目をひらくとは果てを知ること

その後は闇 闇

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