指紋 草野 理恵子

指紋
草野 理恵子

(インク)

指になって歩く
何指だろう
指になってしまうと自分が何指かはわからないものの
指であるという明らかな気持ちが与えられる
指紋にインクが流されますます自分を強く感じる
もう感じることだけでいいのだ

輪郭だけの家を被りどこまでも進む
おもしろいことに指になっても
腕があり手があり指がある
指の私
鳥につつかれ虫になめられ模様のような道を進む
ますます冷え性になり
指紋の文様が変わる
変わるのかな うつむき瞼に雪が溜まる
溜まるのかな?
上を向くと溶けた雪が指紋を伝う
味はシロップの味
十六グラムもないけど

指になり歩けば私は何の指? 指紋にインク流され冷え性

(支払い)

また親指を被って歩いた
指紋が渦を描くことなく流れていて心もとなかった
私の指紋はこんな流れだったのか
今更な気持ちであるが指紋なんて見たことがなかった
被ってみて内側から見てやっと指紋の気持ちがわかる

早い夏の一日
まだ赤い靴を履いていたころだ
川のように砂が流れる道沿いに饅頭屋があった
同じ模様の饅頭はないよとおじさんが呟き
私はよく見て渦を巻かない蹄のような饅頭を買った
指紋でいいよというので指紋を押した

私は砂の道が川になり川辺に青い花が咲くまでそこにいて
そこで饅頭を食べた
「永遠の世界」という絵を見たことがある
こんな絵だった気がしながら
「まんじゅう 買いに 来ました」
と区切って言う客が最近多い

親指を被って歩けば流れ紋 支払い指紋で心もとない

(おばけの指紋)

おばけの指紋っていう鳥がいるんだ
彼はそう言って小さな骨を持ち帰った
彼の指を見た
小さな骨と彼の指が結ばれ取れなくなっていた
どうしたの?
失くさないように縛った
彼はそのまま生活をした
邪魔じゃないの?
邪魔じゃない
うっ血しないの?
うっ血している
彼の指の先は縛った場所から腐り始めていた
早く解いて

自然と糸は解け
骨の小鳥は彼の指を食べた
残りの骨を探しに行くね
小鳥を胸に入れて彼はドアを閉めた

調べてもおばけの指紋なんて鳥はいなかった
私の指を噛めば皮が剝がれ
鳥のように舞った

骨と指結ばれ指は腐れ落ち小鳥が食べると指紋のおばけ

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