

唇の描かれた地図
尾内 甲太郎
傷だらけのキリンの檻と
アメリカバイソンの檻のあいだで
時間なんてものを見てしまった
せめて時計にとどめておけばよかった
いみとおとのはざまで
時間なんてものを見てしまったせいで
ふりしきる蝶の重み
むきだしになった記憶の火花
をかけがえのない青だと
握ってしまったではないか
白熊の檻へおりきるまえに
未来を忘れるためのスクワット
作品から混じりっけなしの品だけ
を分泌させて誰も知らない終着駅
検温 献血 やがて献体
礎のためだけにつくる礎は
どれほど尊いものだったのか
たえまない水のゆきつく先
とぎれがちな鳥の鳴き声
を円錐の頂点をのがれてきた蝿の
ゆるぎない泡と信じられたなら
凍結された秒針の影 ほら
誰も夕焼の素性なんて知らない 底を通う水
そういえば何もいない檻のさびしさを
時間 と呼んだ人がいたという
ほんの気まぐれでも動物のいない国なんて
この星にはかつて存在しなかったというのに
ね
美しい帆
タッチパネルか否かを探ってみるように君のひとみへふれてみたんだ
透けている服なんだろう おしゃれとはときに刃のように残酷
小説の国のはなしをしてくれて肝臓はもう解毒できない
ニンゲンでいるため首にぶらさげた社員証からこぼれる胡蝶