屏風雨中、苔宇宙  ―――詩仙堂にて / 2010 詩日記から  宇佐美孝二




屏風雨中、苔宇宙  ―――詩仙堂にて   宇佐美孝二

雨滴は
風景の中に入ってはじめて
姿かたちをあらわす
虚空では
空に はめ込まれたまま
出てこられない
 
雀たちは
ななめに竹の林をよぎる
風景の隙間に時間が
そよぐように
 
色の世界では動くことが
わたしの影を
際立たせることなのかどうか
 
ひっ掻かれた風景に 
修復するかのようにひとすじ
雨はそこに流れ込むのだけれど
 
借景の足もと
樋を伝い
苔たちのちいさな茂みには
やっと
ささやかな滴りの
音がよみがえりして
 
わたくしが
そこに居た

2010 詩日記から   宇佐美孝二

12月21日(火)
 
寝る前にシャワーを浴びる
浴槽の床におちる水を見つめている
水は飛沫となり
あつまり
群れ
かたちを変えて流れてゆく
 
水とは
限定してはならないものだ
水とは
けっしてひとつでは形とならないものの謂いだ
 
水とは・・・
つねに人間をうらぎる設問の変形
 
 
12月22日(水)
 
風がでてきたな
雲が南へ流れてゆく
どの車のなかにも乗っかっている雲たち
 
向こうの空はなんて遠いんだろう
陽がななめに射し
人の影がのびる
 
短いものや
長いもの
くねくねと変形したもの
 
ちがう濃さに満ちている影たち
ちがう色で濡れそぼっている影たち
 
 
12月23日(木)
 
午後の陽が部屋に満ちる
その陽が移ろうのを見るのが好きだ
 
陽の影がふすまに映り
窓枠やそのむこうの植物が揺れているのが映る
 
陽はすこしずつ移動する
不在の部屋の眼になる

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