白錆の降るみち 白鳥央堂


白錆の降るみち 白鳥央堂

雪にふりこめられて
秒針が枝折れる
印字できない拝啓や、草々や、ありがとう、さようなら
声音をゆだねる終筆に雪は解け、いつか
滑り落ちるとしても
足首は腐ってこぼすだろう
真夏をねがって祈るだろう
私の陰影を失くす
詠唱が雪をとじこめるまで
 
紅いひづめの一角獣が雨の日に生まれた
踏み砕く音とともに生まれた、光ははじけて、喉にあふれて
母の消える町の名をとり、タペストリーに名前をこめた
冷えていく輪転機の
かたわらにきみをつないで
墨文字のまま積もりかさなる季節を耳に
押し当てて
まだきこえる言葉がある、と
報せたかった
 
すべて、知っていることのなかに安心をみとめていた、いろのうすい、め
しまいこんだぼんぼりのように、鈍く落ちていく光量があった
(季節をだぶらせる時計のしくみを、夢の中に探したことも、すでに、すでに忘れて)
 
階段の溝に残る雪
廃道であれば笹の舟が迷う町
みすてられた家並みのポーチライトだけが生きていて
 
大通りを滑る船体にあわせひとつひとつと灯っていく
暗く、あかるく、すこし明るく、白く、ちいさく
最後の看板をやみに還して
乗る人もなく
舟は滑る
すべりゆく
 
星占いの暗幕に指紋を押し当てる
ぼろだから世界をつらぬいて
穴の向こう、窓枠の外、傷ついたしろい道がみえた
 
印字できない拝啓や、なにか
それらのかたどりに詰まる雪
壊したいすべてのものと、そうでないあらゆるものと
薄いガラス窓の外で裂傷がせめぎあうように、みえた
 
真夏をいま、冬の頭上にねがう、姿勢はわけもなく、祈りの腕型にちかく
言葉からきみをほどいて
紅いひづめが舞う雪のみち、二色刷の辞書を廃道に彫り抜かせる
怒りを軸に持つ子供の
希望に引いた赤線の、幼くぶれる丸みを、偶然のみちとして
きみを伴い
歩いていく
 
感傷の一等星を守る簡素なイラストのような言葉をふたりで交わし
知らない子供、の行く先を
肢はいびつに腐らせたまま
追いつくために拓いて
灯が順繰りに咲いていくのをふりかえってみることもなく
ひとごとへ宛てる一言の
 
ただそれだけの ために
急いで

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