眺望 草野早苗

草野詩130913

眺望 草野早苗

平野が徐々にせりあがる
あるいは
山が長く足を伸ばすあたり
民家を改造したカフェは
遠く蜜柑色の電車を
見下ろす位置にある
電車の音はここまでは届かず
店の奥からテラスまで
ケルトの楽曲が流れ出る
遠い 白い 音符
ひとつずつの音は
至福を探し
人の言葉はとうていおよばない
 
アイルランドの冬の荒波が
海峡で厚みを増して
岩場に襲いかかる
遠く 白く
波は平野に流れ込むが
蜜柑色の電車は護られている
ケルトの曲にある
風 鳥 波 あるく人
 
鳥の胸にある十字の刻印
彼の人の背中はいまだ滑らか
 
私は胸の新しい十字の刻印を
右手で抑えて
駅まで舞い降りる
山のカフェは落ちてゆく陽を
ガラス戸に反射して
遠い 白い 灯のように浮かぶ

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