エヴァ/上京 一色真理
エヴァはひとり待合室でふるえている。へその緒のちぎれた月が薄
い乳房になって、空に上るまで改札は始まらないから。こんな真冬
の夜にきみは産まれに行くのだね。正しい番線から上りの列車に乗
るだけでいい。お父さんたらさっきから金文字の時計ばかり見てい
るわ。きみは赤い裸になれるかしら。あああ、と悲しい声でちゃん
と歌い出せるかしら。お母さんの出口は三つあるから選ぶのが難し
い。一つ目は誰にでもわかる、二つ目は見える人にしか見えない、
最後はお父さんには絶対に教えてはいけない。でも、袖からはあの
人やこの人の毛深い耳たぶがはみだし、衿足からはむっちりと丸い
夢のようなものがこぼれているから、間違いっこない。行ってらっ
しゃいと言うべきだろうか、それともお帰りなさいかな。エヴァは
明日からこの街で、乳臭い一枚の雪花となって舞いなさい。