車道 野木京子

自由詩 野木京子2・140118

車道 野木京子

ほれほれ。楽しいから座っているだけなんよ。
そういう声がしたと思った。
 通りで、車道にはみ出るように、小柄なおばあさんたちおじいさんたちが円陣を組ん
で座り込んでいた。お茶やお菓子を広げている。揃いの服を着ていたので、何かの作業
に疲れてひと休みしているふうだった。仲間を呼ぶような気安い仕草で、彼らが私に、
「ほれほれ」と手招きをした。
 私は知人を訪ねて、初めて来るこの辺りをうろうろしていた。車はほとんど通らなか
ったが、そうはいっても車道にはみ出て座り込んでよいのだろうか。でも作業の人たち
みたいだし、大人数で見通しがよいのだし。私も穏やかに彼らの脇で足を止めるのだが、
予定調和のように、建物の角から妙な車が飛び出してきた。
 危ない! 叫んで、輪の一番端にしゃがんでいるおばあさんをかばうように私は前に
踏み出たのだが、車は甲高い音をたて、ハンドルを切り、私をかするように通り、運転
席の男は悪態をついて走り去った。私は呆然とその場に立ちつくしたのだが、ほれほれ
たちは皆、がっかりしたように口を曲げて私を見ていた。私は声も出ないままその場を
離れ、訪ねた先の知人の住所は空き室でだれもいなかった。
 数日経ってからこのときのことを振り返り、あのほれほれたちは、私だけに見えてい
たのではないのかとようやく気付くのだが、私を苦しめるためにあのこびとたちはそこ
にしゃがんでいたのだろうか。すんでのところで轢かれなかったから、ただ脅かすため
にだけあのこびとたちはそこにいたのだろうか。
 私の外側にいるものたちが、私の予定調和の糸を引っ張っている。

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