ブレス      水嶋きょうこ

詩客 20140510 自由詩 ブレス 水嶋きょうこ1
詩客 20140510 自由詩 ブレス 水嶋きょうこ2

ブレス         水嶋きょうこ

部屋の薄い明かりが水面となって揺れている

眠る前
ベッドの上で 自分の手足をみつめる
ほてった身体にたくさんの細胞が うごめいている

(息をすう)

白い泡が流れ、動き出すものがいる。シダが揺れ、光をともす
遠い生物。海の中、ツノガイは光沢を増し、三葉虫は無数の脚
をなびかせている。紅色のウミユリは水流にそよぎ、シカツノ
サンゴがそっと傾きだす。遠いところから呼ばれるものただよ
うもの。ち、ら、り、ら、れれれ、ら、暗い海中に降る白い雪・・・。
ささくれて。・・・呼気とともにまっすぐ近づくものがいる・・。

ベッドの中で
寝がえりをうつ 音は聞こえない
夜の大きすぎる沈黙と向き合いながら
漂う わたしの身体を たしかめる

(息をはく)

うけとって。ここにいるから。わたしは暗い場所で待ちうけている。
・・・口元から幾つもの泡が零れていく・・・。水の中を
漂いながらあなたたちが近づいてくる。白いあなたたちがわたしを
襲い、変形し融合しわたしの皮膜はちぎれ、分裂する、韜晦する、
漂泊する。産声がひらき、ふえて、きえて、ふえて、
きえて、ふえて、きえて・・・りん。ふるえる、カリヨン。
泡をよぎる、クリオネ。まっさらな赤ん坊が凛々と手を繋ぎ海中を
渡っていく。

眠ることを思う
ベッドの中の身体を思う
幾億もの幾万もの幾千もの
歩んできた生きもののかたち なりたち
脱皮した道筋をつたう          ここは海

(息をすう)

白い背骨をまっすぐに急速に下っていく。つもっていく・・・。
首長竜の遠吠えが、崩れる山脈の稜線が青い卵子が、二等辺
三角形のオタマジャクシが。骨のひびの膣の子宮の奥深いところ
まで一気にもぐりこみ。呼気は浮かび袋となる。億兆の記憶を
とび、海流にまざり、温かな放尿をくりかえす。遠い青い丸い
うすい数々のつながり。つながる。風。とどまる。真っ白の
たくましいひとつの骨。ここは・・・。

夜は深い    さざ波
ベッドは遡る方舟となっている
綱をほどき 沖へ
動きだす 億万の てのひら 眠りの中へ

(息をはく)

足をけり浮き上がる
地球はやわらかな水で満たされている
ケイロレピスの翻る黄金の尾っぽ
殻をつき生れ出る
地球はあたたかな黒土でおおわれている
ヴェロキラプトルのあおぐ鉤爪

(息をすう)

錨をあげる
眩しい
航海の 浸食の 胸いっぱいの花束を手に取る
出航した船はグアストラマ星雲を渡っている
乗り捨てたベッドはあとかたもなく
漆黒の闇 広大な海原 恐竜の待つ
華やぎの眠りの中へ

(ブレス)

水潤む鮮やかな地球はわたしの肺の中にある

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