こわい雨 鈴木一平

【5月31日掲載】自由詩 鈴木一平

こわい雨 鈴木一平

思い出の話してみたいとおもいます
あれは二丁目の方で火災があって
要約できない話の汗を
スーツの襟にたくわえている
この空を
うつすひとの目に
食い込もうとする旅客機の窓が
国境の雲をひろう目を見て
話したい
 
立っているものに指さして「あれは
わたしの木」「あれは約束」と応じるように
遠藤さんがまた一人で
輪になって
泣いているなかで 鈴木くんだけは
よくできたプラモデルみたいに立っていた
ころびそうになると
一枚の板をさしだしてくれたんだって
川の向こうで地蔵が見ている 天気が
西から変わってうれしい
おや指をぬすむ車がひかる よくわかる
鈴木くんはなんの約束にもなれない箱だ
たんにひとつの部屋かもしれない
よこの地蔵を蹴りたおしながら
思い出していたことがある うまれたときは
隣にいたひと
泣いておおきな息をすう
生きようとする知らない小部屋
いるだけで気持ちわるくなる その部屋が
おどろきとして引き受けるもの
二歳の子 その二年分の生きた
おばあちゃんが手を合わせ
その子のみじかいまな板が生きて殴りかかってくる呪い 昨日
雨にうたれたような気がする

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