二十四時 渡辺めぐみ

【8月9日掲載】自由詩 二十四時

二十四時 渡辺めぐみ

生きる鬼を殺めてはいけない
鬼にも心があるのだからな 
八十代の翁とすれ違いざま
くすんだ背中から
言葉が踊った
 
空気が蒸している
人の心が黴生やし
俗悪にそよぐもいいが
突き抜けてあちらへゆくことになった者の
見送りはきつい
 
もう何年になるだろうか
 
戻ることはない者の見送りだ
 
半減期を待とうな
 
マスクをかけた作業服の男たちが
仮眠の荒野を静かによぎる
 
希求という名の
吊り橋が落ちるまで
鬼のはらわたについてゆく彼ら 我ら
蜘蛛の子散らす子たちの
腕をさらい
運命が吹き下ろしている
目蓋の下の溺死体に布かけよ ひるむな 鬼も頼んで布かけよ

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