二十四時 渡辺めぐみ
生きる鬼を殺めてはいけない
鬼にも心があるのだからな
八十代の翁とすれ違いざま
くすんだ背中から
言葉が踊った
空気が蒸している
人の心が黴生やし
俗悪にそよぐもいいが
突き抜けてあちらへゆくことになった者の
見送りはきつい
もう何年になるだろうか
戻ることはない者の見送りだ
半減期を待とうな
マスクをかけた作業服の男たちが
仮眠の荒野を静かによぎる
希求という名の
吊り橋が落ちるまで
鬼のはらわたについてゆく彼ら 我ら
蜘蛛の子散らす子たちの
腕をさらい
運命が吹き下ろしている
目蓋の下の溺死体に布かけよ ひるむな 鬼も頼んで布かけよ