まばたく 山腰亮介
てのひらの皮膚の下の焰が舌を出している
幼い頃
真っ白な
指さきのない
手ぶくろをしていた
ある日の夢でそれを脱がした人のなまえは
いつも口ずさんでしまう
あの子
ではない
保健室のカーテンの内側のように
陽光は昏い
なんで鳴き止んでくれないの
左太ももで傷んでいる
半透明な目玉は
いつ破裂するかもわからない
夢に 入ってくることはない
ちいさな犬を二匹連れた
彼女の声と眸は
左太ももの目玉のように
匂っている
バスタブのふちに坐って
左太ももの目玉に睨まれている
皮膚をなでる飛沫のひとつひとつで
髪から降る ひとひらひとひらで
右上の奥歯で 右足の親指の爪で
目玉は はばたく