ピスケス・ソディアーツ   谷合吉重

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ピスケス・ソディアーツ   谷合吉重


虎落笛すさぶ新河岸川の岸辺
みのる君のお母さんが
みのる君の名を呼んでいる
遠くから烈しく
(ピスケス・ソディアーツ!)
呼び声に過ぎ去った夢の断片を追い
幸福が死滅してゆく冬の寒空
燕マッチを擦って
枯れ草に火を点ける
燃え上がる兄の横顔
(ピスケス・ソディアーツ!)


青空に魚も革命もこぞって泳ぐ
淡い春の終り頃に
赤い血を流した真綿の断片を弄ぶ男
絡まりつくゼリーがいけないのか
微弱なコンプレックスを持ったまま
妹の顔がきれいになるようにと
砂川さん家の庭先の
いぼとり地蔵に草団子を供え
ごんべ山の麓
谷合眼科に向かう
号泣する用意はできていた
(かな! や!)


まだ眼が赤いのですと 
丸椅子に坐ると
女医だという
谷合先生の奥さんは
おもむろにぼくの膝に乗った
指示されるままに
ぼくは奥さんの眼球に
ゼリーを一、二滴落し
充分開いたのを見とどけると
ゆっくりと針を刺した
(ぞ! なむ!)


肉と写像の分裂
詩から原理へと
最初の十年
品の良い電気屋としてデビューする
死ねないエチュードを抱え日々主婦を訪なう
欲望のブレーカーは何アンペアにしましょうか
足りない電流はぼくのリリックで
それとも
溜まりにたまったレジ袋の中身を無料で処分しましょうか
パラノイアの両価性については
生殖の後でゆっくりと
(かな! や! ぞ!)

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