Sunday, June 7, 2015 妖精の庭   野村龍

711Sunday, June 7, 2015

妖精の庭   野村龍

霧生先生
骨になった感想はいかがですか

お通夜にも
告別式にも
僕は行けなかった

死体を見るのが
怖くて堪らなかったのです

いつもニヒルに構えていたあなたから
おや 野村くん
今日は死体に会いに来たのかな
なんて
不意に声を掛けられそうで

教育者は 教え子がいつ帰って来てもいいように
今の立場に ずっと留まるべきなのです って
あなた言ってたよね

今ほど
あなたに縋り付きたい時は
嘗て無いんだけど

あなた今
いったいどこにいるんだ

文学は 呪われた学問なんだよ野村くん

と言うのも
あなたの口癖だったけれど

学生でなくなってからも
文学に関わり続けたお陰で

人生まで
呪われたようですよ

仏文学者のくせに
コンピュータにも滅法強くて

ATコンパチ なんて言葉があった頃に
Windows 3.1 を 嬉々としてインストールしてましたね

今日は Wizardry が届いたから
教授会の間ずっと
僕はマニュアル読んでます なんて言ってたけど
あんた ほんとうにそれ やったのか

違う畑でそれだから
フランス語は化け物だった

進学して

ヴァレリーかマラルメをやりたいんです とお伺いを立てたら
君は語学がダメだからやめなさい って
即座に僕を叩き潰しましたね

でも
僕がようやく諦めて 公務員になったとき

先生は心から喜んでくれた

僕の親よりも 遙かに

だから 先生

あなた今

いったいどこにいるんだ

タグ:

      

Leave a Reply



© 2009 詩客 SHIKAKU – 詩歌梁山泊 ~ 三詩型交流企画 公式サイト. All Rights Reserved.

This blog is powered by Wordpress