地卵のある風景   井谷泰彦

0904

地卵のある風景   井谷泰彦

久しぶりに隣町の生協に行くと
地卵が籾の上に並べられ売られていた
「有機飼料で育てられた富士見鶏の有精卵!」
地卵を電球にかざして透かし見るオッサンの
レトロなポスターが壁に貼ってある
そのヒトは排卵日から二週間
いったんは終わったはずの生理が
このところ立て続けにきている

かつて列車に乗る前に買った茹でた地卵
(冷凍ミカンとともに)
プラットホームの売店で並んで待っていた父と母
地卵で喉を詰まらせながら私はときどき死んでいた
褐色の肌を車窓の風に晒したお盆休みの頃

(地卵の白身と黄身を別々に泡立てつくる子どものおやつ)
そのヒトはシフォンケーキを趣味で焼いた
褐色の皮としっとりとしたスポンジを切り分けながら
五十代でも子どもってできるんだっけ?
いまはホルモン投与とかしてるヒトが多いから、九十代でもできるはずよ
死と出産を同時に迎える未来社会
鮭の人生がヒトにもやって来る
(イイネ)
ほそい水路いっぱい夥しい卵の散乱を果たして死ぬんだよ

そのヒトは排卵日から二週間
いったんは終わったはずの生理が
ひと月も続いている

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