キセキヲデル   来住野恵子

0917

キセキヲデル   来住野恵子

朱夏なつたけて
しろく燃え立つ花魁おいらんそうの茂みへふいに降りてくる
キアゲハが一匹
風の扉をあけ
甘さも苦さも弾き飛ばして
花木立から舞い逃れる

遠く鳴りわたる氷雲
鬼灯ほおずきをゆらす地霊のざわめき
まひるの月欠けて羅針盤がぐにゃりと曲がる
鬼神の義憤は
炎暑のアスファルトを突き通し
いちずに
きららかに立ち昇るから
落ちたばかりの漆黒の尾羽を拾い
滑る雲の
光の縁取りをユラユラなぞった

おさない闇は
貴石のようにごろんと転がる
    〈・・・・横道なきものを。〉*
直進しない光がするどく屈折しながら縫いつづる
綻んだ沈黙をまなじりにみて
ゆるく歩き出すえんじゅの坂道には
臍帯さいたいの夢が蝶のかたちをとかれてふりつもる
ほのかな熱の染む
泥の異名を聴いている

      *〈・・・・横道なきものを。〉
           「情けなしと客僧達、偽りあらじといひつるに、
            鬼神に横道なきものを。」(謡曲「大江山」より)

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