前夜 そらし といろ
1
ひらひらと火をまとう
金魚のように美しいひと
美しい姿をまもるべく
誰も火を消そうとしない
火の叫びは
誰にも届かない
宛先が不明だから
仕方のないこと
なのだろうか
2
透明な柵のなか
飼育されずに
野生も知らずに
綴じられただけの
物語もない僕たちへ
3
今日もまた明日になる
安定した座標のコピーとペースト
教えられた祈りもろともに欠けていく星
4
午前四時三十七分
検温の記録
はちどろくぶのひのゆめ
5
歌のタイトルは
仮止めのまま伝承され
本当は歌ではなかった
宇宙に滅んで
探査機の名を口ずさむ
6
真っ黒い羽交い締めにあう
ほつれた背表紙を掴むもの
床の敷石が一枚ずつ
7
圧力鍋で操作された時間の終わらない沸騰
8
砂時計をひっくり返すたびに
歴史は逆巻いてしまうので
硝子の膜を蹴破った
彼らは
砂の肩甲骨をひらいて
翼の苗を植える
9
解体した望遠鏡のレンズを
水へ浸せば聞きなれたアラーム
縮小版の楼閣が泡を吹いて 音も砕けて
10
角砂糖のような歯を噛みしめて
迎えようとおもう
新品でまぶしいばかりの
一日と 君と 僕と