前夜   そらし といろ

0416

前夜   そらし といろ

 1
ひらひらと火をまとう
金魚のように美しいひと

美しい姿をまもるべく
誰も火を消そうとしない

火の叫びは
誰にも届かない
宛先が不明だから
仕方のないこと
なのだろうか

 2
透明な柵のなか
飼育されずに
野生も知らずに
綴じられただけの
物語もない僕たちへ

 3
今日もまた明日になる
安定した座標のコピーとペースト
教えられた祈りもろともに欠けていく星

 4
ひかがみに南極がある
午前四時三十七分
検温の記録
はちどろくぶのひのゆめ

 5
歌のタイトルは
仮止めのまま伝承され
本当は歌ではなかった

宇宙に滅んで微睡まどろ
探査機の名を口ずさむ

 6
真っ黒い羽交い締めにあう
ほつれた背表紙を掴むもの

床の敷石が一枚ずつ彼方あなたへ駆けてゆく

 7
圧力鍋で操作された時間の終わらない沸騰

 8
砂時計をひっくり返すたびに
歴史は逆巻いてしまうので
硝子の膜を蹴破った
彼らは
砂の肩甲骨をひらいて
翼の苗を植える

 9
解体した望遠鏡のレンズを
水へ浸せば聞きなれたアラーム
縮小版の楼閣が泡を吹いて 音も砕けて

 10
鴇色ときいろの放電に叱られて
角砂糖のような歯を噛みしめて
迎えようとおもう

新品でまぶしいばかりの
一日と 君と 僕と

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