Mにて   荒川純子

0820

Mにて   荒川純子

Mに座っているといろいろな人がやってくる
お笑いのネタ見せの若者は
TV関係者と待ち合わせ
ダンス仲間の派手な男女はクラブの話と
ほうれい線
大学生が互いのレベルを語るのは
スマホ片手の通信ゲーム

その中で私
百円のコーヒーと借りてきた本を読む
今度越した家ではなぜか文字を追えなくて
働きだしたら私の時間は私だけのものではない
終わらない予定とくりかえす毎日
私はスケジュールを上書きするだけ
逃げ場所なのM
誰でもないひとりとして座っていられる
ほどほどに賑わうM

麻布十番の商店街は人通りが多くて
Mの前に停めた自転車
数ページだけでも活字を追えれば十分
必要な時間と一杯のコーヒー
うす暗くなった帰り道で
力強くペダルを踏めば
きっと明日も私でいられる予感

塾帰りの小学生はポテトとDS片手に
親の迎えを待ち続け
中国語のレッスン女子はREの発音
「私、毎晩練習してるよ」

百円玉一枚で私はここで生き返る

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