プリズム   群昌美

04222

プリズム   群昌美

観葉植物が
生きている証明に
冬のセーターを脱いだ妻は
影絵のように火を演じる
雪は耳目を小さく折りたたみ
口は清貧なふるまいをして
くぐもる窓のむこう
ビルの明滅、へんずつう
たったひとつ
明瞭に生きている

夜がシンバルを鳴らす
その、ひと振りごとに
木々はひび割れ
いびつな行間をつくりだす
ゆれる、葉が
まばたきと
まばたきをくり返し構成した
暗い星座も
わたしたちが
厳しい態度で隠し立てをしてきた
たよりない現実も
分厚い金属に近づいた
光の束と共に
口からあふれでて
根深くささくれだった
暗部にながしこまれてゆく
毀れたおと
砂と流木
なめらかな頸部

台所には
剥製にされた朝が
過敏なこころのいれものとして
ひらいた目を
こちらへ向けたまま
横たわっていた
屈折する光の上を
横断する細かな粒子が
あらわれては消える
日の当たらない卓上に並べられた
瓶や水差しは息をひそめ
ひきのばした夜のなか
抽象化された街のように
互いの形態を包みかくしている
ガスコンロのさえずりと
せんたくきの息つぎ
つたなく気のない素振りで
再演しているのは
生活への求愛

丁寧に干されたセーターは
すでに乾ききっていて
それでもなお
日にさらされつづけている
彼女の造形が永遠だと信じて
うたがわない強さは
その緊密な縫製によって
保たれている
あなたの好きな
やわらかな色彩が
いつまでも薄れぬようにと
山裾にひろがる町並みを見据え
耳を澄ます
休符の花粉
幼さが、とおい

今日、梱包する
おまえの笑顔に風が吹いている
ひどく天気がくずれた日の
遊具のように
髪がひとりでにあそぶ
花とデニム
熱と空気
眼のなかで溶けあう
(手のひらで溶けあう)
人々が
ようやく見上げる季節に
家族の単位を
春とする

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