小詩集「駄作」   松本秀文

小詩集「駄作」   松本秀文

ある時豆は考えた
自分は豆として生まれて
生涯豆として生きるだけ
自分が生まれた意味は豆
風がやさしく吹いている

ヘチマ

ヘチマのような詩を抱えて歩むナマケモノ
明日が来ないことを祈る
天気予報のお姉さんから明日について教えてもらう
螺旋の階段をゆっくりとのぼってゆく
増殖する図書館が見えるとお腹が減る

無口な帽子屋たちのにぎやかなお茶会でアリスが見ている夢
夢をあきらめた作業員のライオンたちが夢にビンタされる夢
時代の唇から売れない芸人たちがぞろぞろとあふれてくる夢
期待をふくらませてスキップしながら冥府へと旅立った後
肌がきれいになった「現実」のおばさんにそっと手を振る夢

駄作

死んだ大詩人の駄作が愛人の日記帳から発見されて
読者諸氏は文学の陰部、、、、、を修羅のようにペロペロなめる
愛情のないお小遣いで育った子供たち
「つながりたいけどつながりたくない」
ギリギリの生活設計で詩を読むことだけが幸福な毎日

秘密

郵便局員の犬が毎日切手を舐めて過ごしているのをご存知でしょうか
切手は郵便物の輸送費を示す「記号」として存在しているのではありません
切手を貼らなくても荷物が届くシステムははるか遠い昔に成立しております
犬はいやらしい想像をしながら「とにかく舐めさせろ」の欲求が強いのです
月光が敗残兵たちの死体を照らし出す時刻に遠くで汽笛が鳴っております

いつもの日々

わかりやすい文章の孤独が難解な文章をねたんでいる空間
いつも、、、の物語に出てくるいつもの登場人物が殺された場所で
いつも、、、の犬がふてくされていつもの煙草をふかしている
いつも、、、の妖精を狩りに出かけて死んだいつもの春が
いつも、、、の亡霊のようにいつもの犬の陰嚢ふぐりをもんでいる

汚染された素足が光として音楽になる
牡蠣工場で交わされる詩のような会話
うつくしいお姉さんのワキから
いじわるな柑橘類の香りが脳にあふれて
洋梨のような性欲に直接語りかけてくる

世界にちゃんこを

ある日のことはある日のことである
ここにはいない力士たちが
あたえられた時間をつっぱって
どこかわからない場所へとおしだしておしだして
相手におしつぶされた後でおいしいちゃんこ鍋をつくる

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