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鳥と、星と   佐々木貴子

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鳥と、星と   佐々木貴子

経度と緯度が交差する、
地球のある一点。
この一点こそは私のものだ。
キュッキュッ、
マジックでほら
名も書いた。

人は定住を得たがる。
どこどこ町何丁目〇番地
その一軒家が私。

三十年来私のものであった、馴染深い住所。
そこに棲みつき、毎日
同じ風景を散歩するうち、
「私」とは、
ここで、この土地で暮らす某なのだ、と
無意識のうち信じ始めていた。

それはある種心地よい幻想で、
この土地の私、と思いこむことは、
「私」とは、
周囲によって規定された存在なのだ、と
思考を停止させてくれたのである。

安穏と暮らしていた
ある日、
突風が吹いた。

しがみついた手を
ふと離したその一瞬に、
私の体はマジックで書いた住所から引きはがされ、
見知らぬ土地へ
飛ばされてしまった。

ひゅううー ぽとり。
どすん
恐る恐る、目を
ひらく。

そこは空洞のような広場で、
それを取り囲むように乾いた木々が生え、
昼は目に見えぬあまたの鳥がすだき、
夜になれば鳥は星に変化してびっしりと木に実る。
そんな土地であった。

「私」とは、
定住の命無きこと―
そこが新しい我が家となった。

佐々木貴子
俳人。青森県生まれ。俳誌「陸」を経て、俳句同人誌「LOTUS」同人。
第五回「芝不器男俳句新人賞」西村我尼吾奨励賞。句集『ユリウス』(2013 現代俳句協会)。

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