骨抜き    鷲谷 みどり

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骨抜き    鷲谷 みどり

教室で
だれかとおしゃべりしていると
その子ののど奥からふいに
小さな骨が飛び出して
私の食道につきささってしまう
それは
わずかな熱と痒みをもって
やがて 私そのものになっていくから
私は 休み時間の
あらゆる人たちの骨を吸い込んで
あるいはチャラチャラと軽薄な音をたてて
ティラノサウルスみたいに
腰を曲げて歩くしかない

骨同士のきしみが
あんまり手に負えないときは
裁縫の得意な姉に
ピンセットで抜いてもらう
まるでお話に出てくるオオカミみたいに
ほどかれては
縫いなおされて
そのたびに私は
もう一度生まれなおすようだった
時々 あなたの分を間違えて抜いてしまったと
姉に謝られたけれど
姉は本当に分かっていたのだろうか
私と そこのソファのバネの違いを?

ある朝
姉がもうすぐ結婚して家を出るというので
私は仕上げに
この背骨を抜いてほしいと頼んだ

キレイに抜いてね
食卓の私が ふいに
がらがらぺしゃんと崩れて
お母さんを驚かせてしまわないように
だれにも 私に柵が無くなったことを
気づかせてしまわないように

姉は 私に
お気に入りのボタンを縫い付けてくれた
次に会ったとき
私を 私と分かるようにと

そんなことよりも
私はかくれんぼがしたい
教室の
うなりを上げるストーブの湯気のなか
カーテンのレース模様のふち
あの日一度だけ
姉さんの白いのどに
突き刺さったままの
あのカレイの骨になりたいの

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