読書灯  島田幸典

読書灯  島田幸典

河川敷にゴルフボールを拾ふひと多摩川に見え都下にし入れり
朝の雨降らしし雲は押上の塔のとがりに触りてぞぬる
深淵はうつつに見えて白昼のコインランドリー蓋開けてあり
遠く見えやがて近くに見えきたる轢死体には羽毛残れり
分煙といふ概念の成りしより喫煙そのものが目的となる
分煙の一区画にてしばらくを梢にあそぶ雀見てをり
その人に血縁うがらのありし当然を葬(はぶ)りの日までおもひみざりき
二十代長かりしかな報道の後方しりへに映る町も歩みき
かはやへの往反くらき夜の家の空気の冷えを素足に踏めり
世界ここにすぼまるごとく読書灯点けてありしがそれもまた消ゆ

作者紹介

  • 島田幸典(しまだ・ゆきのり)

一九七二年生まれ。山口県出身。九〇年「牙」に入会、九一年「京大短歌」に参加。二〇〇二年歌集『no news』刊(第四七回現代歌人協会賞、第二八回現代歌人集会賞)。「八雁」選者。京都市在住。

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