スミレ論   萩原健次郎


スミレ論   萩原健次郎

五十六
 
陽の光が強くなるにつれて、灰いろから漆黒へ。黒々
と息が反転していく。世界に吸われる。時間の消える
洞の在所となってもはや語られるのではなく、見えな
い、むしろ不在となっている。
白光、それは不在であるにもかかわらず強い存在で。
負性の絵になり、圧搾されて擦られて
濁音と濁音が混ざって、陰ごと墜ちている。
 
五十七
 
根の皮膚に、青汁にじみ
湿潤したあとの硬化がすすむ。
それに小鳥の鳴き声が混ざって
ノイズを発している。
速達の消息が、切り裂く声に試される。
 
生温かくなってきた池面から
つらい湯気があがって、もうどのような色なのか判然
としない。
 
かたしろの春は、抜粋の枠できれいに象られ
ほそさを競いあう、時雨の歌情。
 
五十八
 
人差し指と中指を使って空にかざし
距離や事物の寸法を測る。
指のあいだに、春の音が震えている。
じいじいと、
光線に音像が混線して、
 
眼と耳と、土くれのような身体が
ひかりに、欠ける。
ときの渦に巻かれている。
 
どうすれば、可憐な花弁を見分けられるか。
 
五十九
 
眼を、連れていけ。

(連作のうち)

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