廃墟の向こう 浜田優
砲弾の黒い穴
吹き飛ばされたレリーフ
焼け落ちた鉄条網が
地を這う蔓草にも似た
ありふれた廃墟に
鳥の歌はこだませず
空は一日じゅう高い
廃墟の向こうに何があるのか
まだ誰も知らない
足あとは瓦礫でとだえ
埃にまみれて消えかかる
まだ誰も知らないから
廃墟の向こうはやっぱり廃墟
ある日かくれんぼ遊びの少年が
夢中で鬼から逃げてきて
やっと振り向いたら一人きり
そこにはウッドデッキのテラスがあり
テーブルには白いクロス、伏せたコップ
重ねた皿に並んだ食器
始まるはずだった一家の団欒
時代が家を空けたまま
家族はもうどこにもいないのに
少年が一人
テーブルに頬杖をついて考える
いつか、ちょうど僕くらいの年の子が
ここから何を見上げて泣いたのか、と