夢は蛍光    古﨑未央



夢は蛍光    古﨑未央

こどもたちが皆
変な色のランドセルを背負っている
たくさんの空気と
燃焼している天体を超えて
届かない光線の色を
教えてくれている
アスファルトの上の死を飛び越えて
通学路の下は洪水
どこかで死んでる九官鳥が
胸をひらいて羽根を濡らす
電話の向こうで夕日が落ちる音がする
食器が割れるのが見える
 
世界中の窓の向こうをかき混ぜて
瞳孔の震えはやまない
睫毛ばかり伸ばして
男の子が死んでいく
女の子が生まれて
男の子が死んでいく
体の中心からこわばって
肉体は息を止める
静脈をなぞる
浮かない顔の女の子 /生き返らない男の子
 
初恋を膣口へ迎え入れる
そうするとリネンの端切れがいくつも風に飛ばされる
とろとろに漬け込まれた鶏ムネ肉を
母の手が引き裂いて捏ねている間に
飲み込まれた初恋を密かに嘔吐する
粒子はやみくもにタイルに散らばって
澱は名残おしく剥がれ落ちる
(そっと拭きとって捨ててね )
(そっと拭きとって捨ててよね )
眩しいと蓋をされた
一筋の光線がわたしだった
健やかに伸びた光は
誰かさんたちの純粋だった
栄養は変幻して夏休みの終わりに枯れる
バケツの中で育つ踝を
救いきれなくて流した川辺で
見たことのない男の子が
逆光の中で立ったままいつまでも動かない
その視線に睨まれて帰れなくなったわたしが
まだ道草しているのだと電話の向こうで母が言う
そうかもしれない
答えて
窓の向こうで男の子たちが
生殖器の名前を連呼しながら輪になっていつまでも帰りたがらないでいる
遠泳の果てに生存を手に入れて
母とわたしは
交信をやめて遠く散った

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